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発達性ディスレクシアとは? 第6回発達性ディスレクシアデイに参加して

2 日前
読了時間: 11分

先日、発達性ディスレクシア研究会が開催した「第6回発達性ディスレクシアデイ」にオンラインで参加しました。


発達性ディスレクシアについては、国内外で研究が進み、読み書きの困難を評価するための検査や支援方法も少しずつ整えられてきています。一方で、一般にはまだ十分に知られているとはいえず、「本人の努力が足りないのではないか」と受け取られてしまうこともあります。また、メディアなどで紹介される際に、症状が実際とは少し違った形で描かれていることもあります。


さらに、地域によっては、発達性ディスレクシアについて専門的に相談できる医療機関や支援機関が限られているという課題もあります。


当相談室では、発達性ディスレクシアのアセスメントに用いられる「STRAW-R」という標準化された検査を備えています。今回の参加をきっかけに、発達性ディスレクシアとはどのようなものなのか、症状だけでなく、発達性と後天性の違い、背景にある要因、検査や診断、相談先などについて、改めて整理してみたいと思います。





「ディスレクシア」ってなに?



ディスレクシア(dyslexia)は、主に「読むこと」に困難が生じる状態を指す言葉です。


「文字が読めない」と聞くと、文字そのものを認識できない状態をイメージするかもしれません。しかし、ディスレクシアでは、文字をまったく読むことができないとは限りません。文字を一つひとつ読むことはできても、読むのに時間がかかったり、読み間違いが多かったり、文章を読むことに大きな負担がかかったりすることがあります。


また、読むことだけでなく、文字を書くことや、漢字を覚えて書くこと、英語の学習などに困難がみられる場合もあります。


こうした読み書きの困難は、本人の努力不足によるものとは限りません。知的能力が十分にあっても、読み書きという特定の部分に強い苦手さが生じることもあります。




「発達性」ってどういうこと?



ディスレクシアには、発達の過程で読み書きの困難が生じる「発達性」ディスレクシアと、脳卒中や頭部外傷などによって、それまでできていた読み書きが難しくなる「後天性」のディスレクシアがあります。


発達性ディスレクシアは、文字を学習していく過程で、読むことや書くことの習得に特有の困難がみられるものです。そのため、本人が「もっと頑張ればできる」という問題ではありません。


「発達性」という言葉から、幼い頃からすぐに気づかれるものと思われるかもしれません。しかし、読み書きの学習が本格的に始まるまでは、困難が目立たないこともあります。小学校に入学して文字を学ぶようになって初めて気づかれたり、文章量が増える中学生以降になって困難が明らかになったりすることもあります。


また、読み書きの困難は、使用する言語によって現れ方が異なることがあります。


日本語のかなは文字と音の対応が比較的規則的ですが、英語では綴りと発音の対応が複雑です。そのため、発達性ディスレクシアのある人では、英語を学習する段階になって、読み方を覚えることや単語を正確に読むことに強い困難がみられる場合があります。


日本語ではそれほど困難が目立たなかった人が、英語の学習が始まってから「英語だけ極端に苦手」と気づかれることもあります。


「読めない」「書けない」の理由は様々。



読み書きが難しくなる背景には、いくつかの要因が考えられています。


・言葉を音のまとまりとして捉える「音韻認識」の難しさ

・文字をすばやく正確に処理していく「自動化」の難しさ

※音韻認識ってなに?

簡単にいうと、話し言葉を「音のまとまり」として捉える力のことです。

日本語では、音のまとまりの中に、少し特殊なものもあります。例えば「きって」の「っ」、「ほん」の「ん」、「おばあさん」の「ー(長音)」などです。また、「か」と「が」、「は」と「ぱ」のように、濁音や半濁音を正確に区別することも必要になります。

読み書きを学ぶときには、こうした「音」と「文字」を対応させることが重要になります。そのため、音を正確に捉えたり、音のまとまりを操作したりすることに難しさがあると、文字を読んだり書いたりすることにも影響する場合があります。

例えば、文字を一文字ずつ読むことはできても、促音や長音を読み落としたり、濁音と清音を取り違えたりすることがあります。また、文字を見て対応する音を思い浮かべることに時間がかかる場合もあります。

このように、読み書きの困難を考えるときには、単に「文字を覚えているか」だけではなく、その文字が表している音をどのように捉えているのかという視点も重要になります。

例えば、文字を学び始めたばかりの頃は、「これは『あ』」「これは『か』」というように、一文字ずつ思い出しながら読んでいきます。しかし、学習を重ねるにつれて、文字を見た瞬間に対応する音が自然に浮かぶようになり、いちいち考えなくても読めるようになっていきます。ところが、この自動化が進みにくいと、文字を読むたびに意識して確認する必要があるため、読む速度がなかなか上がりません。一文字ずつ読むこと自体はできていても、文章になると時間がかかったり、非常に疲れたりすることがあります。


さらに、読むことそのものに多くの注意を使うため、「何と書いてあるのか」を理解することに使える余力が少なくなることもあります。


そのため、読み書きの困難を考える際には、「読めるか、読めないか」だけではなく、どのくらい正確に、どのくらい速く、どの程度負担なく読めるのかという視点も重要になります。



・視知覚の難しさ(図形や空間を正しく把握する能力)

・文字を書く際の手指の細かな動き


音韻認識や自動化だけでなく、さまざまな認知・運動機能が読み書きに影響することもあります。このように、同じ「読み書きが苦手」という状態でも、その背景にある要因は一人ひとり異なる場合があります。


そのため、読み書きの困難に対しては、ただ繰り返し練習するのではなく、何が難しさにつながっているのかを把握し、その特徴に応じた支援や介入を考えることが大切です。


しかし、実際には「読むのが遅い」「漢字を覚えにくい」といった症状だけから、その背景にある要因を判断することは簡単ではありません。


そこで重要になるのが、標準化された検査などを用いたアセスメントです。読み書きのどの部分に、どのような困難があるのかを客観的に捉えることで、その後の支援を考えるための手がかりを得ることができます。



どうやって調べるの?―標準化された検査



読み書きの困難を調べる検査には、いくつかの種類があります。それぞれ調べる内容や目的が異なります。


●STRAW-R(改訂版 標準読み書きスクリーニング検査)

ひらがな・カタカナ・漢字などについて、読みの正確さや速さ、書き取りなどを調べる検査です。学年ごとの基準値と比較することで、読み書きのどの部分に困難があるのかを把握します。発達性ディスレクシアのスクリーニングにも用いられています。


●URAWSS(ウラウス)

「小中学生の読み書きの理解」について調べる検査です。読み書きそのものだけでなく、学校生活の中で必要となる読み書きの力にどのような困難があるのかを把握するために用いられます。


●CARD(包括的領域別読み能力検査)

読みの力をいくつかの領域に分けて調べる検査です。読みの困難がどのような側面にあるのかを、より詳しく捉えることを目的としています。


●KABC-II

知的能力だけでなく、「何をどのように学習しているのか」という側面も調べることができる検査です。認知処理と習得度の両方をみることができ、読み・書きについても評価することができます。


この他にも、ひらがなの音読や音韻処理に焦点を当てた検査など、さまざまな評価方法があります。実際のアセスメントでは、本人の年齢や困っていることに応じて、複数の検査を組み合わせて考えることがあります。


WISC-Vそのものは読み書きの検査ではありませんが、読み書きに関連する認知特性をより詳しく捉えることができるようになりました。ただし、21検査版が刊行されたのは2026年7月とまだ日が浅いため、現時点では、実施できる機関はまだ多くないかもしれません。


当相談室では、このうちSTRAW-Rを用いた読み書きのアセスメントを行っています。



どんな風に診断されるの?



発達性ディスレクシアを含む「限局性学習症(限局性学習障害)」の診断では、単に「読み書きが苦手」というだけでは十分ではありません。


読み書きの困難が、知的発達の遅れや視覚・聴覚などの感覚の問題、神経学的な疾患、十分な教育を受ける機会がなかったことなど、別の要因によって説明できないかを確認する必要があります。


また、これまでの学習の経過も重要です。


例えば、学校などで適切な読み書きの指導を受けているにもかかわらず、同年代の子どもと比べて読み書きの技能の獲得が著しく難しい状態が続いている、といった経過です。


そのため、診断の際には、現在の検査結果だけを見るのではなく、これまでどのように文字を学んできたのか、どのような指導や支援を受けてきたのか、それによってどの程度伸びたのかといった学習歴を確認することが大切になります。


読み書きの技能は、指導や練習によって当然変化します。重要なのは、適切な教育や支援を受けているにもかかわらず、年齢や学習歴から期待される水準に比べて、読み書きの困難が著しく続いているかどうかを、検査結果やこれまでの経過を含めて総合的に判断することです。


つまり、発達性ディスレクシアの診断では、「読めない・書けない」という現在の状態だけではなく、なぜその困難が生じているのかを、これまでの発達や学習の経過も含めて考えることが重要になります。



どこに相談すればいいの?



読み書きの難しさについて相談したい場合、子どもであれば、まず学校の担任や特別支援教育コーディネーターに相談するほか、地域の療育センターや発達障害者支援センター、発達障害を専門とする医療機関などが相談先になります。


一方で、大人の場合は少し事情が異なります。


現在の日本では、成人の発達性ディスレクシアを対象として標準化された読み書きの検査は、子どもを対象としたものに比べてまだ少ないのが現状です。


発達性ディスレクシアの評価では、読みの正確性や流暢性だけでなく、知的能力や読み書きに関係する認知特性、これまでの学習歴などを含めて総合的に検討する必要があります。


そのため、大人が発達性ディスレクシアについて詳しく調べたい場合には、まず発達障害について詳しく診療している医療機関に相談することをおすすめします。


医療機関によっては、成人を対象とした知能検査などに加えて、読み書きの状態を調べるために、子どもを対象として標準化された検査を用いることがあります。この場合、成人のための標準値が用意されているわけではないため、検査結果をそのまま成人の診断基準に当てはめるのではなく、得られた結果を参考値として、これまでの学習歴や現在の困りごとなどと合わせて解釈します。


「大人なのに子どもの検査をするの?」と思われるかもしれませんが、これは成人の読み書きの困難を評価するための検査がまだ十分に整備されていないことによるものです。


また、診断を受けることだけが目的ではありません。診断の有無にかかわらず、自分が読み書きのどの部分を苦手としているのかを知ることで、仕事や日常生活の中でどのような工夫をすれば負担を減らせるのかを考える手がかりになることがあります。



さいごに…



ここまで、発達性ディスレクシアについて、読み書きの特徴やその背景にある認知的な要因、検査や診断、相談先について紹介してきました。


今回の研修の中で印象に残ったのが、「できる・できない」だけで読み書きを考えないことの大切さです。


発達性ディスレクシアへの支援では、一般に「書くこと」よりも「読むこと」が優先されます。読むことができないことの方が、日常生活の中で受ける不利益が大きいためです。


例えば、漢字を読むことが難しい場合、学校などではふりがなをつけてもらうという配慮があります。そうした配慮を受けることで、読めない漢字があっても学習や生活に参加しやすくなります。


しかし、「ふりがながあればいいから、漢字は読めなくてもよい」ということでもありません。実際の生活では、すべての漢字にふりがながついているとは限りません。街中の掲示や商品表示、書類など、ふりがなのない文章を読まなければならない場面もあります。


だからといって、「読めるようになるまで、ひたすら練習する」ということでもありません。


大切なのは、本人の生活にとって何が必要なのかを考えたうえで、どこまで取り組むのかを本人と一緒に決めることなのだと思います。


どの程度までなら取り組めそうか。どのような方法なら取り組みやすいか。どのくらいの負荷なら無理なく続けられるか。そして、努力だけでは負担が大きい部分については、どのような方法で補っていくのか。


例えば、読む力そのものを育てる取り組みを続けながら、必要に応じてふりがなや読み上げ機能を利用する。書くことについては、練習をしながら、場面によってはパソコンや音声入力などを使う。このように、「できるようになること」と「別の方法で補うこと」を二者択一にしないことが大切です。


「苦手だから、もうしなくていい」でも、「できるまで頑張る」でもない。


本人にとって必要なことを見極め、本人に合った方法と適切な負荷を考えながら、どこまで取り組むのかを一緒に決めていく。


それが、読み書きの困難を抱える方への支援において、大切なことなのだと、今回の研修を通して改めて感じました。

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